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観た映画を記録するのみ。感想休止中。

スラムドッグ$ミリオネア

原題/Slumdog Millionaire

2008年/イギリス 監督:ダニー・ボイル

出演:デヴ・パテル、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピントイルファン・カーン


Slumdog Millionaire - Trailer

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ムンバイのスラム街で育った主人公とお兄ちゃんが成長する物語。

トレイン・スポッティング2公開を控え、あーこれダニー・ボイルなんだなーと思って気軽に借りてみたら超ウルトラ楽しかった。ミリオネアってあのみのもんたのやつでしょ、と思って正直馬鹿にしておりました。観もせずに「麻薬を買う資金が無くて一念発起、ミリオネアに出て仲間と共謀していろいろあって大金ゲット!バレる前にずらかるぜ!(デンデンデデン…♪タフボーイタフボーイ…)と逃走して終わる映画なんだろな」と勝手に信じ込んでいました。これ完全にトレイン・スポッティングですしごめんなさいと思いました。インドが舞台の映画だと知ったのも最近で、インド好きとして観てなかったのを恥じました。

クイズ番組に出て、これまでの経験から着実に正解を導いていくわけなんですが、途中で救済者を装った妨害者が出てくる。結果としてそれが妨害であることを見抜くのですが、その「信じられる相手かどうか」も彼の経験から導いた答え。うまくできています。ていうかBって普通に書いたらあそこで終筆しないし、妨害者も最初は正解を書いてたんじゃないかなと思って、ていうかそう思わせる演出だし主人公も当然そんなこと見抜いてて悲しい気持ちになってるだろうしその背景を想像したりモゴモゴ…

ストーリーそのものは最後に報われるウルトラハッピー物語。この映画を楽しめた成分の半分くらいは音楽&カーテンコールのおかげです。

ちゃんと最後にカーテンコールがあるのも救い。インド映画にとっての踊りや音楽って必要不可欠だと思っているので、長年支配していた立場のイギリス人による映画で、ちゃんと用意されていることは救済だと思いました。

■以下は作中の質問です、観ながらのメモなので違うかも。

1:映画スターに関する質問
2:インドの国章に関する質問
3:ヒンズー教に関する質問
4:詩に関する質問
5:外貨(米ドル)に関する質問
6:武器に関する質問
7:イギリスに関する質問
8:クリケットに関する質問
9:三銃士に関する質問

これらの質問を、彼はそれまでの経験を通して答えていきます。

 

▼感想を補足▼

 

インドという国はヒンズー教徒の国なのですが、彼らはイスラム教徒という設定。

いきなりウザいですが私のブログだから好きにさせてほしいんですけどインド国土における宗教の比率は下記のようになっており、

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圧倒的なヒンズー教徒の国なわけです。

日本に住んでいると自分の宗教(宗派)を意識することって、殆どの人は葬式くらいしか無いと思うんですが、インドは日常が明確な宗教の国です。

デリーや都市部では他の宗教に対する考え方はリベラルになっていると言われていますが、違う宗教の人とは結婚できません。デリーの若いインド人でも、イスラム教徒は友達としては認め合えるし否定しないけれど、結婚は無理!理由なんかないよ無理!って言ってました。だから駆け落ちも多いそう。

みんな本当に信心深い。ひと目見たら服装でなんの宗教か、どのカーストの人かわかるんです。とはいえ都会(デリー)の若者は、この映画に出てくる若い女性のようにジーンズを履いたり肌を露出したりしてお婆さんから「最近の若いもんは!」と睨まれたりしているんですが。とはいえ、なにしろインド人で無宗教の人は一人もいません。

不思議なことなのですが、カースト制度ってヒンズー教の仕組みなのにもかかわらず、そして法律上は否定されているにもかかわらず、他の宗教の人々にも適用されていてイスラム教徒もインドにいる限りカーストに属しています。抜け出すことは生涯叶いません。来世に期待したくて神様を信じるわけです。

という前提を知った上で今作を観ると、めちゃくちゃ面白い。インド行ったことあってインド好きな人は絶対面白い。なぜ彼がチャイワーラーであることが笑われるのか、なぜ「皆、チャイワーラーのほうが詳しいわよ」と比較対象にされたのか、「スラム出身なのにミリオネアに出た」ことを、どうして目障りに思う人々がいるのか、希望を感じる人々がいるのか、「応援してるよ、絶対正解してね」と言ってくれる味方がどういう人々なのか。彼が祈るシーンや宗教に言及するシーンは一回も出てきません。目から感情を読み取ることも難しい。何度も愛を裏切られ、兄に裏切られ(インド人はものすごく家族を大切にする)、宗教に母親を殺された挙句、彼が底抜けに素直なのはどうしてなのか。自分のなかの信じるものを築けているから・あるいは何も信じていないからではないのか。

お兄さんはスラム出身でどんどんマフィアみたいになっていくわけですが、悪いことをする前にイスラム式のお祈りをするシーンがあります。その直後、建物から空を映すシーンで、建物の壁からのぞいた空が十字架みたいな形になるんです。イスラム教のシンボルは三日月とお星様ですが、もとはといえばイスラム教もキリスト教ユダヤ教も同一起源ですよね。現代、宗教やカーストや貧富によって区別されているあらゆることは同一起源であると意味したかったであろう風景だと感じました。

 

<メモ>

・取り調べする警察のひと、見たことあるなーと思ったら「めぐり逢わせのお弁当」の人だ!(イルファン・カーン)

・「愛してる」「だから何?」→彼らは完全な大人になる前に出会えて良かった。最後にお互いを信じないことを否定できたので。

・お金を稼ぐ道具として神様の歌を覚えた。識字できないのであの問題を知らなかった

・日本のミリオネアって忠実だったんだなー、高校生のときお母さんと観てたなぁ。

・タージって物乞いがヒョイコラ入れる感じじゃなかったけど、なんしかリアルだった。もう行かないでいいやと思ってたけどまた行きたいな。

Wikipediaによると、「主人公の名前は原作ではラム・ムハンマド・トーマスとなっており、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒の名前が全部入った名前となっている。」だそう。やはりこの映画からは宗教観・信心を強く感じる。宗教に関する描写は殆ど無いにもかかわらず。

・単純にエキサイティングで、「このまま終わらなければいいのに!」と思った映画は久しぶりだった。とにかく音楽が素晴らしい!

▼DVDのタイトルメニューも遊びごころあっていい。

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