ミツバチのささやき
1973年/スペイン 99min 英題/The Spirit of the Beehive
監督:ビクトル・エリセ
出演:アナ・トレント、イザベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメスほか
いなかの町に暮らす瞳の綺麗な女の子が、公民館で『フランケンシュタイン』を観て変わっていく映画。終始子ども目線で時間が流れる。光と影のコントラスト・構図が大変うつくしい。直訳すると『蜂の巣の精』となりビチョビチョ感があるが、邦題がおみごとで賞。
フランシスコ・フランコによる独裁政治が終了する数年前に製作されたこの映画は、その独裁が始まるスペイン内戦の終結直後の1940年を舞台とし、内戦後の国政に対する微妙な批判を匂わせている。内戦により分断された夫婦と若き後妻それぞれの抱える苦しみ、子どもたちはそんな状況下でも純真さを保ちつつ成長して行く。
たまたま村で上映された1931年のアメリカのホラー映画『フランケンシュタイン』、そしてある逃亡者との出会いは少女アナの心に何を残したのか。
この映画は、歴史的背景を知らないで「よくわかんない雰囲気映画だな」とか言っちゃいけない的なのを読んだことがある。ので感想が書きにくい。「面白かったって書かなきゃマズイ」というバイアスがかかった状態で観始めたような気がする。が、浅学ゆえ歴史的背景をよく知らないまま鑑賞したため自分にとっては若干雰囲気映画だった。わかんなくてもとにかく美しい(すべてのシーンが美しい!)ので最後まで観れてしまう。 鑑賞後に1973年の映画だと知って驚いた。2000年代に作られたと言われても通るかも知れない。そのくらい美しく、モダンっていうか一切古臭さがない。
Wikipediaによると
歴史的背景
フランコ総統は激しいスペイン内戦の末、総選挙で選ばれた左派人民戦線政府を覆して1939年に実権を握った。内戦により様々な対立から国民は分裂し、戦後も人々は報復の恐怖から沈黙する日々が続いた。この映画が製作された1973年には、独裁政権の厳しさも当初ほどではなくなっていたが、未だ公に政権を批判することなどはできなかった。
政府批判の検閲を逃れる方法をスペインの芸術家達は心得ていた。最も有名なのは1962年『ビリディアナ』を監督したルイス・ブニュエルである。彼らは作品に象徴化を多用し、メッセージを表面に出さないことで検閲局の審査を通していた。
象徴化
主人公アナの家庭が感情的に分裂している様子は、スペイン内戦によるスペインの分裂を象徴していると言われている。また、廃墟の周りの荒涼とした風景はフランコ政権成立当初のスペインの孤立感を示しているとも言われる。
作中何度かフェルナンドは知性の感じられないミツバチの生態に対する嫌悪をあらわにしている。これはフランコ政権下での、統率がとれているが想像力が欠如した社会を隠喩している可能性がある。また蜂の巣のテーマはアナの家の窓ガラスの6角形模様や蜂蜜色の明かりに現れている。
アナは1940年当時のスペイン共和国の純粋な若い世代を象徴し、姉イザベルのうそは金と権力に取り憑かれた国粋主義者を示しているとも言われる。
ラスト近くでテレサの気持ちが和らぎ、家族の将来が好転する印象を与えているが、これはスペインの将来に対する希望とも解釈できる。
「~と言われる」が多すぎて『最初に唱えたのは誰だァ』と都市伝説のように感じてしまうが、ほんとうにこういった意図で練り込んでいるのなら検閲を逃れた芸術としての価値も大きいような気がする。とにかく色んなシーンや構図が印象に残った。とくに線路に寝っ転がるシーンはドキリとした。レールが耳に当たるヒヤリとした感覚まで伝わってきた。
母親の手紙の相手とその関係とか、大人の行動などは一切説明のないまま(たぶんこれは意図的だろう)、子ども目線で話が進むのが印象的だった。これが独裁政権を表してるとか、当時観た人々に伝わったんだろうか。